今回はちょっとまじめなテーマで。本格的に学校などで学んだわけではない自分が書くには相応しくないかもしれませんが、相応しくない記述があればご指摘いただけるとありがたいです。
陶芸の釉薬や絵具の安全性について考えるきっかけは陶芸をはじめた頃に材料店で何気なく買った上絵の具でした。購入後数ヶ月使ってふとラベルを見て、鉛の含有率が70%とあるのを見てショックを受けました。それまでいいかげんに扱っていたことに対してもそうですが、はじめてきた客にそうした材料を何のアドバイスもなく売ってしまう店に対しても驚きを感じたのです。
極端に言えば陶芸材料の多くは無害とはいえないのかもしれません。粉末状態で大気中に舞っているもの、特に粒子の細かい珪石などを大量に吸いつづけるとじん肺になる可能性がありますし。
毒性の高いものでいえば鉛でしょうか。1200度を超える高温の釉薬に使われることはほとんどありませんが、楽焼の釉や上絵の具などには、無鉛のものも増えているけれど、発色が良いなどの理由で使われていますね。特にチューブ入りの上絵の具などは水性絵具などと同じ感覚で扱いがちになりますので注意が必要ですね。なお鉛白や唐の土と呼ばれる材料も鉛を含んでます。
赤に発色するものとしてカドミウムが使われることがあったようですが、現在使われているのかどうか分かりません。ガラスには今でも使われているようで、一度真っ赤なガラスを器に入れて焼いて見事な色になったことがあったのですが、カドミウムと知ってからは試していません。
織部やトルコブルーなどの緑や青の釉薬、また辰砂や鈞窯など還元で赤く発色する釉薬に使われることのある炭酸銅も劇物に指定されていますね。使ったバケツや柄杓を洗って緑色の粉が残っていたら炭酸銅が使われている可能性が高いですね。辰砂など発色に大きく関わる場合はともかく、普通の銅釉なら毒性の低い酸化銅を使用しています。
バリウム、と聞いて想像するのは間違いなく胃のレントゲンで飲むものだと思いますが、あれはバリウムの化合物の中で唯一無害なものだそうで、陶芸に使われる炭酸バリウムや塩化バリウムはやはり劇物に指定されています。よく使われるのはトルコブルーや、青磁でも特に色の青いものなど。
またこれらに比べれば毒性は低いものの、コバルトやクロムなどの金属も取り扱いに注意が必要です。
なんだかこう書いているとすごく体に悪いことをしているような気になりそうですが、扱い方さえしっかりしていれば安全に楽しく陶芸できますので。調合の際にはしっかりマスクをすること、また他の人が吸わないように換気をすることも必要ですね。換気は釉薬を吹きかけたりコンプレッサーを使うときにも欠かせませんし。また使わない材料はしっかり封をしておく必要もありますね。
釉薬や絵具の付いた筆やバケツなどは下水に流さないように。バケツの中で洗って、沈殿するのを待って上澄みを捨て、残りをまとめてバケツに補完しています。これをいらない器にためて焼いて処理する方法もあるようですが、もとはすべて釉薬ですから、しっかり振るいに通してゴミや素焼きのかすなどを取り除けば釉薬として使えます。
今お手伝いをしている教室で一年間たまりにたまった残釉を処理したら10Lの釉薬になりました。
左はN白土、右は2号赤土で、いずれも酸化焼成です。これをみると教室で織部がよく使われているのが分かりますね。
ちゃんと学校に通ったり、弟子入りしたりすればきっとこうした安全性についてはしっかり教え込まれるんだと思いますが、誰でも陶芸教室が開ける世の中ですから(儲かるかどうかは別として)、中には無頓着なところもあるように思います。
例の材料店は今も変わらず材料を売りつづけているでしょうね。さらにいまはネットで簡単に材料が手に入りますから。そういえばハンズで陶芸コーナーが縮小し、特に金属など材料を置かなくなったのはPL法の影響だということを店員さんに聞いた覚えがあります。売れるから何でも売る、説明するひまもないし訴えられると怖いから売らない、どっちがいいものやら。